こんにちは、中国茶ライフスタイル文化協会代表理事のゆえじです。
今回のテーマはコロナ禍での茶摘みの課題と2022年価格動向です。
春茶収穫の季節がやってきました〜!
早いところでは2月から始まっている地域もありましたが、3月も中旬を過ぎた頃から緑茶産地を中心に各地で新茶の収穫・生産が進んでいます。
2021年の統計からも分かる通り、中国茶全体の6割を占めるのが緑茶。緑茶といえば日本茶と同じように春の一番茶(中国茶の場合は清明節(4/5頃)前に摘む「明前茶」)は、農家の1年の収入を決めるとっても大事な時期です。
しかし、この茶農家にとって最も大切な時期である今、中国では上海をはじめとして各地で再びコロナウィルス感染症が広がっています。この状況は春茶の収穫にも少なからず影響を及ぼしているようです。
茶摘み労働者不足の問題
たとえば安吉白茶は気温的に15日程度しか茶摘みに適した時期がなく、基本的に手摘みで行うため、例年は短期間で収穫を終わらせるために安徽省、河南省、山東省などから茶摘み労働者を集めています。
しかし今年はコロナ禍の影響で省を跨いだ移動が制限されているため大部分の労働者が入れず、別ルート経由で再募集をかけざるを得ない状況になっています。
四川省雅安市でも3月中旬以降気温が上昇し芽が育っていく中で、茶摘み労働者不足の影響が顕著になってきているとのこと。茶業とは関係のない地元の農民が茶摘みに参加したりもしているようです。
茶葉生産と感染症対策の両立
茶産地にとっては、茶葉生産と感染症対策をいかに両立させるかが最大の痛手であり、このジレンマの中で、茶産地の政府は数々の防疫策を講じています。
白茶で有名な産地・福建省福鼎市点頭鎮では、中心部の交易市場の使用を停止し、主な茶園エリアや関連企業の拠点に臨時取引所を設置、中〜高リスク地域からの取引参加を禁止するなど感染防止対策を徹底する措置を行っています。
杭州市富陽区銀湖街道坑西村でも、茶畑の近くにPCR検査所を設置して茶摘み労働者のPCR検査を行っています。
またこちらでも福鼎市と同様に従来の交易市場の使用は停止し、茶畑の近くで臨時に設置された取引所で収穫されたばかりの春茶の取引が行われています。
コロナ禍で浸透したオンラインの活用
一方で、コロナ禍の影響で発展した分野もあります。
中国では産地のプロモーションもかねて大々的に「春茶初摘み」イベントを行うところが多いですが、今年はオンライン中継など会場に観客が集まらないような方法で行われていました。
▲安徽省・六安瓜片(緑茶)茶摘みスタートイベントの様子
浙江省農業技術推進センターが開発したアプリでは、茶摘み労働者を募集することもできるみたいです。
また、年に一度の茶摘みの様子をライブ配信することでファン作りに活かす茶農家も増えてきている模様。特に中国ではライブコマースが発展していて、視聴者はライブ配信画面から簡単に商品を購入できるようになっているのが特徴。
茶摘みの時期を生かしたライブ配信は売り上げに直結する新たな販売ルートとして注目を集めています。
資金力のある企業は有名インフルエンサーに茶葉の試飲レポートを依頼するなど力をいれているようです。
このように、今年の春茶のセールスやプロモーションはオンラインでの活動がより一層重要視されています。販売が順調に行われる一方で、実際に商品を届けるための物流業界での人手不足も懸念されています。中国大手ECサイトの京東は新鮮な茶葉を迅速に届けるための物流網を確保したとして茶業界に向けたプロモーションも行っています。
▲京東の春茶配送プロモーション
2022年の茶葉価格はどうなるのか?
茶葉価格を左右する要因をいくつか挙げてみます。
1:生産コスト
茶葉の生産コストは年々上昇しています。特に目立つのが重労働である茶摘み労働者を雇うためのコスト。多くの茶産地で茶摘み労働者が不足しているため、報酬を引き上げないとなかなか人を集められません。
一部では、春茶シーズンの西双版納での労働者不足は1万人を超えているとの報道もあるほど。他にも輸送コストなどもあわせると、収穫後の茶葉の工場引き渡し価格は年々上がっています。
基本的にこうした生産コストの上昇はそのまま製品販売価格に反映されますが、資金力のある企業の場合は値上げするかどうかはマーケティング戦略に左右されます。たとえば高級緑茶のトップブランドとして有名な「竹叶青」では高価格商品は価格を据え置き、低価格商品は値下げをすることでシェア拡大を目指しています。
2:需要と供給のバランス
需要に関しては、中国茶流通協会が発表した「中国茶消費市場報告」によると、2021年の中国国内における茶葉総販売量は230万トンを超え、販売額は3000億元と増加傾向にあります。
(参照:2021年統計レポート)
背景にあるのは、コロナ禍における消費者の健康意識の高まり、近年の若者を中心としたナショナリズムの台頭(国産の良いものを買おう、みたいな流れ)が考えられています。
また、普洱茶や白茶の緊圧茶など長期保存に向くタイプのお茶はコレクションアイテムとしての人気も堅調なようです。このことから、2022年も中国国内での茶葉需要はゆるやかに上昇することが見込まれています。
次に供給面ですが、こちらも年々増加しており2021年の荒茶生産量は300万トンを突破しました。市場に十分に流通していることから考えると、茶葉全体の平均価格は上がりにくい状況と言えます。
ただし、一部の希少な高級茶葉(西湖龍井や洞庭碧螺春など)は供給量に対して需要が強いため価格が上がる傾向にあります。中国茶葉流通協会によると、2022年は低価格商品と高価格商品の二極化が進むことが示唆されています。
3:消費者所得の増加
3月5日、李克強首相は政府業務報告の中で、2021年に中国の一人当たり可処分所得が実質8.1%増加すると言及しました。収入が増えれば消費意欲も高まることも考えられますが、これに関してはそこまで単純な話ではないかな、という感じです。
4:インフレの進行
2021年以降、アメリカはコロナ禍で落ち込んだ景気を押し上げるために貨幣を増刷し、最近のロシア・ウクライナ戦争の勃発は商品価格、特に原油価格を上昇させ、最終的に世界的なインフレを生み出す要因となっています。
その中で、全体の物価水準は緩やかに上昇する可能性が高く、それは茶葉価格にも同じことがいえます。
以上、2022年の茶葉価格見込みをまとめると
1、全体の平均価格はそこまで変わらない
2、ただし低価格品と高価格品の二極化は進む
つまり、品質の良いお茶は高くなりそうですね。
ゆえじの雑感
緑茶を中心に各地で春茶シーズンが始まり、収穫もまぁ概ね順調に進んでいるようです。しかしやっぱり気になるのが茶摘み労働者不足の問題。
人手不足によって、本当は摘みたい時期に摘めなかった茶葉がどうしても増えてきてしまうのかなぁという印象です。ちゃんといい時期に摘めた一級品の量が減り、ちょっと葉が育っちゃった二級品が増えるイメージですかね。
春茶が実際に市場に出回るのはもう少し先になりそうなので価格動向に注目です。