こんにちは、中国茶ライフスタイル文化協会代表理事のゆえじです。
この記事では世界最高海抜のチベットの茶園「易貢(イーゴン)茶場」のご紹介します。
チベットでの生活に茶は1日たりとも欠かせない
チベットといえば“世界の屋根”とも称されるほどの高海抜地帯。中心都市のラサは海抜3650mもあります。
厳しい自然環境の中で生きるチベットの人々にとって、茶は貴重な栄養源として日常生活に不可欠の必需品です。
▼こんな格言があるほど
「宁可三日无粮、不可一日茶」
(食糧が3日なくても茶は1日も欠かせない)
「一日无茶则滞,三日无茶则病」
(1日茶がないと身体がだるくなり、3日ないと病になる)
チベットのお茶といえば有名なのが、酥油茶(スーヨウチャ)。日本語ではバター茶ともいいますね。
茶といっても、ウシ科の動物ヤクのミルクから作るバターと茶、塩をまぜたスープのようなもの。日本でいうところの味噌汁のような存在といえます。
しかしチベットは高地のため気圧も気温も低く降水量も少ない地域。茶樹の生育には適しません。そのため古くから中国の四川や雲南から茶葉を輸入していました。
四川省雅安市の黒茶は通称「蔵茶(※)」と呼ばれ、まさにチベット向けに古くから製造販売されていたお茶です。 ※チベットは中国語で「西蔵」といいます
この中国の茶葉とチベットの馬を交易するための道は「茶馬古道」として有名。
チベットに初めて茶がもたらされたのは641年。唐の皇女だった文成公主が、当時チベットを統治していた国家・吐蕃のソンツェン・ガンポ王に嫁いだ時とされています。
唐代からはじまり、ほんの70年前まで使われていた2000km以上にもおよぶ長く険しい道。
実はこの茶馬古道の上に位置する林芝では今、茶の生産が行われているのです。
チベット南東部の易貢(イーゴン)茶場
易貢茶場はチベットの林芝市波密県易貢郷に位置します。海抜は1900〜2300m、間違いなく世界最高海抜の茶畑です。
「易貢」とはチベット語で“美しい(心が満たされる)”という意味
場所はチベットの南西部、ラサよりも海よりです。
ちなみにどうやって行くのか調べてみましたが、上海から行ける公共交通機関のルートを見つけることができませんでした。
ほぼ直線距離でも3500km、車の場合だと2日と6時間かかる…さすが中国。大陸が広い。
おそらく現実的なルートは、航空機で一旦ラサに入りそこから車で行くパターン。ですが、ラサからも560kmあり、高速道路もないため車で8時間以上かかる距離です。
気軽に行ける茶産地ではありません。
はじまりは1930年代
チベットに茶が植えられたもっとも古い記録は1930年代とされています。目的は、生活必需品である茶葉供給の輸入依存から脱却させるため。しかしこの時は失敗に終わりました。
中華人民共和国成立後の1956年、雲南の大葉種と中葉種を試験的に植樹したところ無事に2000株程度が成長。
1960年には易貢茶場が設立、他品種の植樹や品種改良などを継続してきました。近年はその豊かな自然環境を生かした有機栽培茶の生産にも取り組んでいます。
茶樹の生育に適した環境
インド洋からの暖かく湿った気流が、ヤルンツァンポ川の峡谷に沿って台地の奥深くまで入り込み、豊富な降水量をもたらす…こうした易貢郷周辺の地理的環境と気候条件は、お茶の生育に適しているといえます。
易貢茶場の茶樹は休眠期間が比較的長く、栄養分をしっかり蓄積するため、比較的肉厚で甘みがあるのが特徴です。
主力商品は蔵茶、紅茶、緑茶
易貢茶場で生産しているのは、蔵茶、紅茶、緑茶。
▼黒茶「雪域蔵茶・竹条包」
▼緑茶「林芝春緑」
▼緑茶「易貢緑」
▼紅茶「易貢紅」
易貢茶場のお茶はもともとはチベット市場向けに販売されていましたが、2019年以降ECサイトなどオンラインでの販売も開始、中国沿岸の都市部向けにも売上を大幅に拡大しました。
2020年の茶葉生産量は17.1万トン(2740万元)
この数字をみてもわかる通り、かなり大規模な茶園です。
今後は国外への輸出も視野に入れていきたい、とのこと。遥かなるチベットのお茶、日本で飲める日もそう遠くはなさそうですね。