茶摘み労働者不足問題の解決を目指した機械摘みへの挑戦

こんにちは、中国茶ライフスタイル文化協会代表理事のゆえじです。

今回ご紹介するテーマは茶摘み労働者不足の解決をめざした機械摘みへの挑戦!」です。

茶摘み労働者の減少と人件費高騰の問題

今年の春茶の収穫は感染症対策との兼ね合いで現地では苦労したみたいです。特にエリアを跨いだ移動が制限されたことで、茶摘み労働者が集まらないという問題がが深刻だった模様。

2022年春の茶摘み状況について詳しくは↓こちらの記事にて。

中国緑茶はなぜ高いのか?

中国の緑茶、特に高品質な新茶は基本的に手摘みです。

小さな芽や柔らかい葉を人の目で選別してひとつひとつ手で摘み取っていいます。緑茶に限らず烏龍茶や紅茶などもハイエンド系の高品質なお茶はすべて手摘みです。

産地へ行ってみるとわかるのですが、この時期は太陽も照りつけ暑い中、長時間に及ぶ立ち仕事。武夷山のように、茶畑までの移動が山登り…みたいな厳しい環境の産地も数多くもあります。

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▲浙江省・獅峰龍井の茶畑。傾斜がすごい。
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▲広東省・鳳凰単叢の茶畑。
茶樹が1本1本独立しているので機械は使えない。
はしごに乗って人の手で摘んでいくしかないのです。
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▲福建省・武夷山。茶畑までは徒歩移動。
近いところでも片道1時間くらいかかったりします
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▲こちらも武夷山。
さらに奥へ進むには崖みたいな険しい傾斜を
登っていかないといけません

中国の茶葉は高価なイメージがあるかもしれませんが、コスト分解すると茶摘みの人件費がかなりの割合を占めるだろうことが容易に想像できます。「これは高いのも納得…」という感じです。

茶摘み労働者の人件費が高くなる理由

中国の経済発展とともに都市部で働くホワイトカラーが増え、こうした重労働の茶摘み労働者は減少傾向にあります。人を集めるには報酬を増やすしかないのです。

人件費の高騰は以前から大きな課題として認識されていました。これは短期的な解決は難しい問題です。専門家の間では、伝統的な製茶方法を変え、機械化による効率アップが必要、との見解が主流です。

そして今年、茶摘み労働者の人手不足が特に問題となり、改めて茶摘みの機械化に注目が集まっています。

中国の茶産業はまだまだ労働集約型

中国でも製茶工程の多くはすでに機械化されています(製茶も完全手作りの場合は高級茶として「全手工」と呼んで差別化される)。

しかし、安価な大量生産品を除いた多くの銘茶(ブランド茶)では、茶摘みの機械化が難しく今も人よる手摘みに頼っているところがほとんどです。

銘茶は、春茶の生産コストの8割から9割を人件費が全体のコストの8割から9割を占め、特に茶摘みコストが7割近くを占めることもあるといいます。

このため、一部の高級銘茶の価格は年々上昇し、高止まりしている状況。

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▲西湖龍井の茶摘み風景

直近の10年、特にコロナ感染症の発生以来、春の「人手不足」の問題は、全国各地の茶産地に広がり、ますます深刻になっています。全国の茶産地の地元政府は、「人手不足」の問題を解決しようと苦心していますが、解決はむずかしいようです。

生産量を増やそうとしても、茶園面積を広げるのは簡単ですが、広げた分の茶摘みをどうするのか?という問題がボトルネックとなってしまっている状況…というわけですね。

茶摘みの機械化は簡単ではない

消費者からは“美しい形の茶葉”が求められている

銘茶の茶摘み機械化が進まない要因はいくつもありますが、そのひとつに「茶葉の形の美しさ」を求める消費者心理があります。特に緑茶に関しては高級銘茶だけでなく、大量生産品もある程度の茶葉外観の均一性が市場から求められているようです。

これに関しては本当に申し訳ない…わたしもイチ緑茶ファンとして、いつも惚れ惚れしているのは茶殻の美しさなので、すごくよくわかるのです。

小指の先ほどのちいさな芽、これをひとつひとつ摘み取ってくれてるのかと思うとありがたみが増して、どんどん愛おしくなっていく感覚です。

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▲中国緑茶は茶殻が摘み取った後の生葉のように生き生きしている

とはいえ、歴史的にも中国緑茶の魅力を語る上で欠かせないのは「香り、味、茶葉の形」であるとされてきたので、その認識が一般にも広まったという意味では悪いことではないのですが。その美しい形を実現するための茶摘み機械化が実現すればみんなハッピーですよね。

しかし、浙江省科学技術委員会および茶機械加工チーム委員会の主任専門家である唐小林氏いわく「少なくとも現在の技術では、ちいさくて柔らかな新芽を無傷で摘むのに適した機械はない」とのこと。

現在中国で使われている茶摘みの機械

もちろん中国でも茶葉の摘採機は使われています。1950〜60年代から研究開発、導入が進められ、現在はさまざまなタイプの摘採機が活躍しています。

▲手軽な一人用タイプ
▲二人用:私が福建省の鳳山(閩北エリア)で見たのもこのタイプ
▲手摘みも大変ですが、摘採機使うのもこれはこれで重労働ですよね…
▲乗用型摘採機:これは便利ですが平地の茶園でないと使えないタイプ

中国の茶産地の大部分は山地や丘陵など傾斜があり地形が複雑な場所が多いことも、摘採機が普及しにくい要因の一つですが、これらの摘採機が高級銘茶には適しさないもっと致命的な理由があります。

中国農業科学院茶業研究所の専門家である李楊氏は、「現在の摘採機は茶葉を選別することなく一律に摘み取るタイプのもの。主に低価格帯のバルク茶の摘採に使用されており、銘茶の柔らかい芽を摘む基準に達することができない。銘茶の品質を保つためには今も人の目による茶葉の選別と手摘みが不可欠です」と話す。

銘茶に適した摘採機に求められるのは、手摘みと同じレベルでの適切な茶葉の選別(芽葉のサイズ、柔らかさ、鮮度など)と茶葉を傷つけることなく的確に摘み取る技術です。

中国では現在、この方向性での高度な摘採機の研究開発が進められています。

手摘みと同レベルの品質を目指した研究開発

AI搭載の茶摘みロボットが登場!

浙江工業大学主導で研究されている第3世代の茶摘みロボットが公開され、注目を集めました。

これは自主的に学習・思考するAI搭載の茶摘みロボットで、茶樹の芽や葉を独自に識別し、ロボットアームを制御して正確な茶摘みを行うことを目指しているそうです。

現段階での芽の認識精度は82%、摘み取り速度は平均2.5秒/個、摘み取り成功率は40%と、現状ではまだまだ人による手摘みよりも性能は劣っています。

ロボットが芽を認識した後は、芽の空間的な位置決め、茶摘み経路の計算、ロボットアームの制御というステップを踏む必要があります。現段階ではそれぞれのステップで誤差が生じ、それが積み重なることで茶摘みの成功率が低くなってしまうのです。

一方で、ロボットが茶摘みに成功した40%の茶葉の品質は茎や葉が赤くなるようなこともなく、銘茶向けの原料としてはおおむね問題ないレベルとのこと。

まだまだ研究段階ですが、今後がとても楽しみです。

ゆえじの雑感

茶摘みロボットは本当に驚き!全体を刈り取るタイプの従来の摘採機とはまったく異なるアプローチでですよね。

高級銘茶は人の手でしか積むことができない。では人の代わりになるようなAI搭載の茶摘みロボットを作ろう!という大胆な発想がとても面白いなと感じました。

茶摘みロボットをはじめ、より本格的に機械摘みを広げていくためには、機械による茶摘みに適した品種や栽培方法、茶園設計の研究開発、およびそれらの規格化が求められます。

まだまだ長期戦になりそうですが、機械摘みでコストを抑えつつ高品質な銘茶に出会える日も夢ではなさそうですね。

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